Michinoku hitori tabi Part 4 寝場所が無い!


Route Map 980629 本日(1998/6/29)の走行ルート
横手のW家 → 小岩井牧場 [R107,県道1号]
小岩井牧場 → 八幡平 [R282,アスピーテライン]
八幡平 → 乳頭温泉郷(鶴の湯) [アスピーテライン,R341]
鶴の湯 → 秋田道協和IC [R105,R341]
秋田道協和IC → 昭和男鹿半島IC [秋田道]
昭和男鹿半島IC → 男鹿水族館近くの海岸 [R101,県道59号]

(某地図より無断借用)



朝7時、目が覚めると既にW夫妻は朝食中であった。普段の平日だったらあと1時間は寝ている筈なのだが、秋田ではフレックスタイムなんてものは無関係なようで、相変わらず8to5で昼休みにはキャッチボールをするのが普通なのであろう。宇都宮に住んでいたときも俺と周囲の人間は完全に1時間以上ズレていたもんな。東京近辺とそれ以外の地域は何故こうも違うのだろうか。そんなことをボーッと考えながら、朝の弱い俺は半ば上の空で今日もまた朝食を頂いてしまう。Wはといえば、せわしなく朝食を終えてそそくさとスーツに着替えている。奴のスーツ姿なんてのはどうにも似合わん。テレビでは天気予報をやっている。今日は晴れるようだが、相変わらず週間予報はパッとしない。そういえばテレビなんか見るのも今日で暫くおあずけかもしれないな。

Wは「また来いよ〜」なんて言いながらレガシィで出勤していった。俺もその後を追うように出立の準備を進める。昨日あまりにも怠けすぎたため、今日はそれなりに過酷なコース設定を取ることにしたので、あんまりのんびりしているわけにもいかない。奥さんと話をしながら、パニアケースの取り付け等を済ませる。壊れたパニアケースの鍵は相変わらず直る気配が無いが、何もしていないのだから当たり前である。クソッ、何がUltimate Touring Machineだ、等と悪態をつきながら一服しつつ、暖気を済ませる。このところ殆ど信号で止まることもなく、ひたすら淡々と走っていたからかどうかは判らないが、アイドリングもスムースである。時間はもう8時を過ぎている。さて、出発だ。

奥さんに手を振りながら、昨日夏油温泉に向かった道と同じR107に出る。今日の予定は、一度東に向かって小岩井牧場を経由して八幡平を登り、そこから田沢湖へ向かって途中で乳頭温泉に浸かり、ただ夕陽が見たい一心でわざわざ男鹿半島まで行って適当なキャンプ場で寝る、というかなり無茶苦茶な設定である。W家に1日余計に泊まってしまったのでこうせざるを得なかったというのもあるが、単純に男鹿半島に向かうだけだと夕方になるまで時間が余りすぎる上に、Wがしきりに乳頭温泉の鶴の湯とかいう温泉だとか、走るコースとして八幡平だとかを勧めたりしたのも大いに関係している。そもそもこれらは最初から予定には入っていなかったので、無理が生じるのも仕方がない。ざっと見積もったところ400km強の行程だから、何とかなるだろう。そんなことを考えながら、平日の朝の通勤時間帯ということで多少車の多いR107を東へ向かう。

湯田町の途中で、盛岡方面へ向かう県道に入る。極普通のセンターラインのある県道で、道としては今一つ面白味に欠ける。こういう道はただひたすら眠いだけなのだが、何故か銀河高原ビールの看板が沢山あることだけがやけに気になる。そしてさらに気になる看板が現れる。

sawauchi townこんな呑気な場所だったのに....

Issyou Hyakusyou突然俺にそんなこと言われても困るんだが。

これで眠気が多少覚めたものの、相変わらず他に何もない道は続く。眠いのを我慢しながら走っているうちに、左側に突然大きな建物が現れた。おぉ、ここが銀河高原ビールの工場か。沢内銀河高原ビール工場、なんて言ってるくらいだから実は地ビールではなくて日本全国で作っているのかもしれん。そういえばウチの方でも売ってるもんな、と思うと、あまり有難みを感じない上に飲酒運転をするわけにもいかないので、工場訪問はせずにそのまま通り抜けてしまう。他に何の見どころもない道をひたすら走り、雫石町に着いたあたりで給油をする。ここが前にワールドカップスキーだか何だかで雪が無くてトラブった雫石か。雪が無ければただの地方の町だなあ。地図によると、小岩井牧場まではもう少しのようだ。ちょっとした町中を抜け、JR田沢湖線を渡り、牧場方面へ。道は相変わらず淡々と続いていた。

Koiwai Bokujyou牧場だということでとりあえず停まって撮影

そして小岩井牧場の入り口らしき場所に到着。別に何の目的があったわけでも無いのだが、途中だから何となく寄ってみたというのが正直なところである。駐車場にK100RSを停め、牛の串焼きでも無ぇのか、と思ってうろついてみたが、どうもそれにありつくには入場料1000円だか何だかを払わなければならないらしい。どうせちょっと小腹が空いただけなのにそんな金を払うのは俺のポリシーに多いに反する。300円のラーメン博物館がかわいくみえるぞ。当然何もせずにその場を去る。そして八幡平方面へ向かうため、R4方面を目指す。暫く走ると「分レ」という妙な名前の交差点に出るが、道の交差具合もまた妙で、何処に行けば正しいのかどうにも判らない。信号待ち中のわずかな時間で覚悟を決め、R4を北上する。しかしこれは大きな間違いで、用もなかった石川啄木記念館に着いてしまった。北上するんだからR4だとばっかり思っていた俺が勝手に勘違いしていたようで、あの「分レ」交差点でR282に行かねばならなかったようだ。仕方ないのでそばにあったスーパーの前の自動販売機で缶珈琲を買って一服する。近くにある筈の岩手山は残念ながら良く見えない。噴火だけはしないでくれよな。

一服を終え、今度は間違えないように「分レ」を右に曲がって、R282を北へ向かう。特に何があるわけでもなく、東北道と平行にただ進むだけの面白くない道である。そろそろ昼食といきたいのだが、一体この辺は何が名物なのだろうか。目ぼしい食堂も見つからないうちに、もう八幡平へ向かう道への交差点まで来てしまった。仕方ない、ここは八幡平頂上で湯を沸かし、それでチキンラーメンを食すことにして、交差点の角にあるコンビニでチキンラーメンとおにぎり1つ、そして「竜泉洞の水」を購入。大洋ホエールズの行方が気になるのでスポーツ新聞も買いたかったのだが、何故か新聞が無い。ついでに、たまたま見つけたカメラ屋でカメラの電池交換をする。すぐそこにある交差点を曲がり、暫く走ると町の農協の玄関前でものすごい看板を発見する。

NOWSON

行かなくちゃも何も、俺はもうここに来ている。来ている奴にそんなこと言ってもしょうがないじゃないか。そんなことを考えていると、何やら前方で1100カタナの若造が警察にとっちめられている。おぉー、こんな所でも取り締まりをやっているとは。たまたまのんびり走っていたから良かったが、2時間前のペースだったら間違いなく食らっていた。そして前方にアスピーテラインと樹海ラインに別れる交差点が現れる。先程の「別レ」交差点のように失敗してはならないので、一応停まって確認する。ツーリングマップルによると、どちらを通っても頂上には行けるらしいが、アスピーテラインは「スリル満点のコーナー連続」で、樹海ラインは「大自然の中を豪快に」だそうである。俺の趣味的にはどちらかといえば樹海ラインだが、こちらは県道ではないので路面が良くない恐れがある。そこでアスピーテラインを選択する。

そしてアスピーテラインを登り始めると、これはとんでもなく素晴らしい道であった。天気が良いため眺望が良いのもさることながら、直線とカーブのバランスと、カーブの曲率が妙に俺の好みに合っている。スノーシェッドをくぐり、牧草地帯を抜けたあたりで観光バスに引っ掛かる。ちょっとイライラするが、先程警察を見たばかりだったので適当に停めて一服しながら、バスが遠くに去るのを待つことにする。

hachimantai tenboudai良い道だっ!

一服している間にも、車は殆ど通らない。このような色々な意味で「良い道」を走っていると、なんとなく走り抜けてしまうのが勿体無くなってしまうのだが、ついでに景色も良いので勿体ぶってしまってしばしば停まる羽目になる。展望台があったのでまたもや休憩。景色を眺めていると、ふもとの方から何やら爆音が聞こえてきた。人が折角自然を楽しんでいるのに五月蝿い奴だ、誰だコノヤロー、と思ったら、先程捕まっていた1100カタナであった。反省したのか、それとも俺のK100RSを白バイと勘違いしたのか、やけに遅いペースで走っている。こういう趣味の悪い音を聞くたびに、俺はさらにマフラー交換する気が失せる。交換する金も無いので一石二鳥だ。それにしても、猫も杓子もマフラー交換したがる風潮は何とかならないのだろうか。

hachimantai tenboudai展望台でまた休む。休んでばっかりだ。

暫く走って、頂上の駐車場に到着。15分ほど歩くと、本当の頂上に着けるようだが、往復30分はかなりのロスになるとか何とか理由を付けて断念するが、本当は体力に自信が無いだけである。早速チキンラーメンを食おうかと思ったが、頂上だけに恐ろしく寒いのであまり長居する気になれず、缶珈琲を飲みながらおにぎり1個を食す。おにぎりを食っている間にも、缶珈琲があっというまに冷えきるくらい寒い。寒さにはからっきし弱い俺にはこの寒さはこたえる。メシなんかさっさと終えて下山することにしてK100RSのエンジンをかけると、我がK100RSは例によって寒さとオイルが混ざって猛烈な白煙を吐き出す。まさか7月にもなってこんな姿を見るとは。

hachimantai tenboudai一応登山の準備だけはする奴

hachimantaiここでも景色は十分良い。

R341に向かってアスピーテラインを下る。今度は登りとは違って細かいコーナーが多い。そういう時に限って、トロトロ走る先行車が居たりして、どうにも面白味に欠ける。途中何軒か旅館のようなものを見かけるが、その殆どが営業しているとは思えないボロさである。あっという間にR341との交差点に到着。久々に見る信号だ。ここを左折し、田沢湖方面へ向かう。

R341は山間を多少のカーブを交えながら淡々と進む道である。つまらないわけではないが、先程のアスピーテラインがあまりに気分が良かったので、それと比べると単なる山道である。車も居ないし、かなりのスピードで飛ばしているうちに、左に曲がると田沢湖温泉郷、右に曲がると田沢湖に行く交差点に着く。ここを左折し、乳頭温泉を目指す。ペンション街を抜け、大きなコーナーをカッコつけて曲がりながら走っているうちに、Wお勧めの「鶴の湯」の看板が出た。どうにもこの先にまともな道があるとは思えないようなセコイ道をちょっと進むと、案の定この先はダートだった。クソッWめ、ダートがあるだなんて一言も言ってなかったじゃねえか。俺はダートが嫌いなのだ。GPz750Rで足を滑らせて立ちゴケ同然で転倒した情けない記憶が蘇る。それにK100RSも多分ダートは嫌いだ。大体ハンドルの幅なんかその辺のオフ車の半分位しかないぞ。でも仕方がない、いい加減身体も疲れたし、温泉欲の方が勝っていたので、そのまま先に進む。単なるダートではなくて、起伏が激しい上に路面もデコボコ、落石多しの状態なので大変だ。2km程のダートを走り抜けると、何とも風情のある、悪く言えば古ぼけた温泉宿があった。

Tsurunoyuやっと着いたぜ鶴の湯!

ダートを走ってちょっと神経を使ったので、思わず一服してしまう。さあ行くか、と思ったものの、背中のリュックが妙に邪魔くさいのでK100RSにくくりつけることにする。まあこんな所で盗む奴も居ないだろう。おそらく日本の田舎は世界一安全な場所だろうから。意味がないと判っていつつ、ヘルメット取付フックにリュックの肩紐をワイヤーで括り付け、温泉道具だけ持って門をくぐる。

門から50メートル程は両側に温泉宿の部屋が続き、その奥に温泉がある。左側にある売店のようなところで入湯料を払うようだ。400円払い、風呂に向かったはいいが、どうにも風呂の構成が判らない。5箇所くらいあるようだが、一体何処で着替えれば良いと言うのだ。とりあえず目の前にある扉を開けようとするが、何故か猛烈に固くて全然開かない。半ばヤケクソで強引に引き戸を引くが、やっぱり開かない。う〜ん、どうしたことか、と一人悩んでいると、オジイチャンが隣の扉から出てきた。何だ、こっちから入るのか。早速入ってみると、俺が必死に引っ張っていた扉は開かないようにガッチリと固定されていた。こりゃ開くわけが無い。早速服を脱いで湯に浸かる。乳頭温泉郷の名に恥じぬ真っ白なお湯は疲れた身体に心地よい。俺以外に誰も居ないので、俺のために用意されていたような風呂だなこりゃ、やっぱり遠くから来ているんだからこのくらいしてもらわなきゃ、なんて思っていたらオジイチャンが一人入ってきた。何だ、まだ若ェのにどっか悪いのか? なんて話しかけてくる。いや、そうじゃなくてバイクでツーリング中なんですよ、みたいな話をしているうちに、のぼせそうになってきたので上がる。折角なので露天風呂にも入ってみよう、ということで外に出ようとするが、裸で出るのも何なのでまた服を着て外に出る。そして露天風呂に浸かるが、完全に外の売店あたりから丸見えなのでイマイチ長居する気になれない。しかも底にある石ころがどうにも感触が良くないのでここは一度出て、また別の内湯に浸かる。こちらは猛烈に熱い。すぐに出る羽目になってしまった。

こうして入浴を終え、K100RSの元へ戻って一服していると、ちょっとダンディなオジサンが話しかけてきた。俺のバイクが湘南ナンバーなのを見たのか、東京から来たのか? なんて言っている。話してみると、どうもこの人も以前神奈川に住んでいたことがあったそうだ。それだけに今俺がいるこの場所が、神奈川から簡単に来ることが出来る場所じゃないことを理解しているようで、まあ気ィつけてな、なんていいながら軽トラックに乗って去っていった。俺も走りだす準備を終え、再びダートを抜けて田沢湖方面へ向かう。

先程左折した交差点を直進し、暫く走るとそこはもう田沢湖だ。1周する時間は無さそうなので半周に留めようとするが、問題は右に行くか左に行くかである。しかし、悩む間も無く道が勝手に右に向かっていったので、そのまま右に向かう。適当なところで停めて、日本最深の湖を眺める。でも、日本最深と言ったところで、そんなの岸から見たって判るはずが無いので、そういう意味では河口湖を眺めるのと大きな違いはない。しかし、河口湖と決定的に違うのは澄んだ水と静けさである。河口湖なんて水に浮いている釣り舟と菓子袋見に行くようなもんだからなあ。そしてツーリングマップルの言うところの「湖を望む最高のポイント」なる場所に行くべく走り出すが、どこまで走っても展望台のようなものは見当たらない。もう少しで1周しそうになってしまったので、途中の茶屋で一旦停まる。何だ畜生、結局殆ど1周してしまったではないか。地図を見るとやはり行き過ぎたようだが、どう見ても何もなかったのでここは諦めて、男鹿半島への道を検討するが、何とここからまだ100kmくらいあるではないか。う〜ん、時間はもう4時近いし、出来れば6時にはキャンプ場に着きたいから、それを考えると100kmはちょっと遠い。また横手に戻ってW家というのも多少考えたが、いくらなんでも三夜連続というのは夫婦生活に支障をきたしかねない。そこで、協和ICから秋田道に乗って昭和男鹿半島ICまで走って時間を節約することにする。一般道主義者だったはずなのに、こともあろうに二日続けて高速を利用してしまうとは何たることか、と思うが、背に腹は代えられない。覚悟を決めて出発する。帰りの道沿いにもやっぱり展望台のようなものは何処にもない。仕方ないので、湖の中に怪しくそびえる辰子像なるものを拝んで田沢湖を後にする。

Tatsuko zou何の像だか良く判らんです

少しだけR105に乗り、途中の交差点で右折してR46へ移り、協和ICへ向かう。このあたりは秋田でもそれなりに人口が多い地域のようで、信号は多いし車は多いし、走っていても全然面白くない。そこで道沿いの笑える看板探しに励むが、これも全く見つからない。何ともつまらん道だ。そうなると早く協和ICに着きたい一心で運転が雑になってくる。しばらく走ってようやく協和IC到着。気付いたら、八幡平ではあんなに晴れていたのにこちらは曇っている。どういうわけだ、晴れていなければ夕陽が見れないではないか。えぇいこのクソ天気め、晴れやがれ! とケチをつけるが、その程度で晴れるわけが無い。まあ太平洋側と日本海側で天気が違うなど日常茶飯事だから仕方がない。行かないで後悔するより、行って後悔したほうがまだましだと判断して、予定通り秋田道に乗る。

初めて乗る秋田道だが、思った通り車が全然走っていない。どうせ一般道だって大して混んでいないのだから、わざわざこんな道を作らなくたっていいんじゃないかと普段は思うのだが、今回は世話になっているのでそんな文句は言えない。それにしても全然車が居ない。某速度×2+10をキープして走っているうちに、地方高速道路恒例の片側一車線道路になってしまった。こんな状態で金を取るとは何ともおこがましい。そういう時に限ってどうしようもなく遅いカローラが前を塞ぐ。邪魔くさいのにどうにも抜けない。思わず時速140kmでの左側すり抜けをしたくなってしまうがここはじっと我慢する。すると、上手い具合に次のインターで下りてくれたので、また先程の巡航速度に戻して突っ走る。あっという間に昭和男鹿半島ICに到着。料金所を出たところで一服する。

先程までずっと山の中を縫うように走ってきた俺にとって、八郎潟のはじっこ辺りに位置するこの場所の景色はちょっと異様である。とにかくひたすらだだっ広い。これが晴れていればもっと見晴らしが良かったのかもしれないが、ここまで来てもやっぱり空は曇っている。もう夕陽は諦めたほうが良さそうだが、とりあえず男鹿半島にあるキャンプ場への道を検討する。検討とは言っても殆ど選択肢はない。前方に「男鹿」という青看板が見えたので、それにしたがって進むことにする。

途中のR101沿いのスタンドでガソリンを入れる。若い店員のニイチャンが「何処から来たんですか?」なんて話しかけてくる。スタンドに入ると2回に1回は話しかけられる。バイクの一人旅だとあまり人と話をする機会もないから、これが結構嬉しかったりする。これが東京だったら「カード作りませんか」といちいち言われてイライラするところなのだが。その後、そばにあったコンビニに寄ってカップラーメンとおにぎり、酒のつまみのサラミを購入。昼がおにぎり1個だったのにこれではあまりにも寂しすぎるが、上手い具合に食堂が見つかったら明日の朝飯にでもすれば良い。

少し走ると海沿いに出る。久々に見る日本海だ。どうせ夕陽も見えないし、もう走るのも面倒だからこのへんの海岸でキャンプするか、とふと思い立ち、バイクを停めて海岸方面に歩いてみると、見事にキャンプ禁止の看板が立っている上に、高校生がワイワイ騒いでいたりしてあまり具合が良くない。さっさと立ち去り、暫く走ったところでまた海岸沿いに抜ける脇道に入ってみるが、ここも今一つ気が乗らない。何かの工場がある上に、バイクを停める場所が無い。またもやR101に戻り、暫く走っているうちに道の両側には食堂もスーパーもパチンコ屋も何もない状態になってしまった。クソッ、あるうちにラーメン屋でも何でもいいから入っておくべきだった。どうせこの先には何もないだろう。そして時間はもう6時。周囲はかなり暗くなってきている。うーん、マズイぞ、飯どころか、寝る場所すら確保できないではないか。これは困った。二兎を追う者一兎を得ずと言うが、俺はまさにその状態ではないか。こうなったら晩飯はカップラーメンで諦めるとして、寝る場所を確保するしかない。ここから男鹿半島の途中にある桜島キャンプ場までは30km弱といったところか。ここには無料の温泉もあるらしいから、仮にカップラーメンだけでも悪くはない。覚悟を決めて、そこまで一気に走り続けることにする。

こうなると、もうひたすら走るだけである。男鹿駅前を抜け、いよいよ何もない男鹿半島の海岸沿いを走る。ただ走る。無心で走る。当然街灯も何も無いし、頼りはK100RSのヘッドランプだけだ。細かいコーナーを早くキャンプ場に着きたい一心でどんどんクリアする。ここまでただひたすら走るのも久しぶりのことだ。何となく心は走れメロス状態になっている。男鹿半島は殆ど海岸が無く、断崖絶壁が続くので、それに沿って走る県道59号はアップダウンを繰り返し、時にとんでもないヘアピンコーナーや、車だったら通るのをはばかられるような細い道になったりする。これはトンデモナイ道に来てしまった。晴れた昼間だったら最高の景色だったのかもしれないが、もう真っ暗になってしまったので何も判らない。こんな所に人が住んでるのか?とも思うが、たまに集落が現れたりする。良く見ると沿道には「中学生 10km」なんて看板が立っている。どうにもマラソンをやっていたようだ。こんな上り下りの多い道を走るのは大変だろう。バイクでも大変なのに。普通はこういうひたすら同じようなパターンを繰り返す道を走っていると段々飽きてくるのだが、この時は完全に無心状態だったようで、飽きもせず、疲れもしない。途中の峠の中腹で、テントを張って寝ているライダーを発見したりしながら走っていると、ようやく桜島キャンプ場に到着する。あーあ、もう真っ暗だ。

実はここはキャンプ場はおまけで、メインは旅館のようだ。おそらくキャンプ料金は旅館のフロントで払うのだろうと判断し、誰も居ないフロントに向かい、ベルを鳴らして担当者を呼び出す。出てきたオジサンにキャンプしたい旨を告げると、1000円かかりますけどいいですか? なんて言うではないか。普通こういう言い方はしないよなあ、なんて思いながら「いいですよ」と答え、申込書に記入する。するとオジサンは、いかにもバイク乗りな格好をした俺に、この先の海岸はよくバイクの人が勝手に寝ているから、そっちなら金かからないし、そばにトイレもあるし、そこでキャンプした方がいいんじゃないの? なんて言うではないか。何という商売っ気の無いオジサンだ。俺も俺で、そうですねえ、なんて言いながらその海岸の場所を聞きだす。するとオジサンは親切にも地図を持ち出してきて、ここに水族館があるから、そのすぐ先だ、なんて言う。ここからは大体5kmくらいだろうか。まあオジサンがそう言うんだし、素直に従うことにしてバイクの元へ戻る。ここで無料温泉のことを思い出すが、キャンプ場のある辺りには灯が全く無く、こんな状態で温泉も何も無いので、心は完全にその海岸へと移っていた。

再びK100RSは走り出す。ここからも今までと同じような道が続く。たまに見える海ははるか下の方にある。何とも豪快な道だ。そしてその道が突然すごい勢いで下りだし、一番下まで下りたところに水族館はあった。何とも汚い水族館だ。そういえばWがこの水族館は亀しか居なくて笑えるから行ってみろ、とか言ってたな。そして数百メートル走ると、オジサンの言った通り海岸が現れた。道路から海岸へ下りる階段があるところでバイクを停め、試しに海岸に下りてみる。うん、悪くない。ここだったらテントを張っても道路からあまり見えないだろうし、何かの被害を被ることは無いだろう。それに、もうこれ以上走る気になれない。ようやく今日の寝床が決定した。

Oga Hantou nedoko あ〜やっと寝床が決まった〜。

そうと決まれば話は早い。早速K100RSのセンタースタンドを立て、荷物を下ろす。まずはテントだ。学生時代にトポスで買った4980円の4人用テントを組み立てる。慣れているので作業はすぐに終わる。続いてパニアケースを外しにかかると、何とここで雨が降り出してしまった。こりゃ困った。とにかく荷物を全部テントの中に無理矢理突っ込み、そそくさとテントの中に潜り込む。真っ暗なので、とりあえずパニアケースから懐中電灯、キャンドルランタンを取り出して灯を確保する。荷物が邪魔で自分の居場所が無いので整理をしようと思ったが、その前にまずは湯を沸かさなければならない。ストーブと鍋をセッティングし、テントの外で「竜泉洞の水」を沸かす。湯が沸くまでの間にテント内の整理、エアマット及び寝袋の用意、着替えを終え、ラジオをつける。う〜ん、キャンプらしくなってきた。バイクだというのにこれだけ色々持ち歩けるのもパニアケースのおかげだ。BMWを選んで良かったと思う瞬間だ。

Today's Dinnerそして今日の晩飯

そうこうするうちに湯が沸いたようだ。早速カップラーメン「スーパーカップ 鳥がら塩」作りに勤しむ。3分待つ間に、おにぎりを1つ食す。なんだかやけに美味い。そしてカップラーメンを食う。これも美味い。貧相な飯の筈なのに、なんだかやけに美味い。ゴミを片付け、一服しながら面白いラジオを探すが、今日は野球が無いせいもあってどれもこれもつまらない。そもそもラジオ局自体が少ない。NHKとニッポン放送系、他に何かやっているが良く判らない。とりあえず加藤茶の番組を聞く。声だけの加藤茶というのはあまり面白くないということに気付いたりする。そして食後といえば酒だ。普段はウイスキー系統はあまり飲まないのだが、キャンプではバーボンと相場が決まっている。持参したジャックダニエルをラッパ飲みしつつサラミを食う。至福の瞬間である。これで外が晴れていたら間違いなく外で星を見ながら酒を飲みつつ、そのまんま寝てしまう筈だ。キャンドルランタンのほのかな灯で地図を見ながら翌日のコースを考える。地図をめくりつつ酒を飲んでいると段々眠くなってきた。ん、まだ10時か。随分早いけど、まあ暫くの間は自然と一緒に寝起きするとしますか。というわけで、キャンドルランタンの火を消し、寝袋に潜り込と、聞こえるのは波の音と雨がテントを叩く音だけ。頭に日本地図を思い浮かべて、ああ、俺は今こんな所に居るんだな、なんて考えているうちに、いつの間にか眠りについていた。

本日の走行距離 413km
本日の費用 ガソリン代 2714円
有料道路代 秋田道(協和〜昭和男鹿半島) 1050円
温泉代 400円
昼飯 130円(おにぎり1個)+130円(竜泉洞の水)
晩飯 110円(おにぎり1個)+168円(カップラーメン)
珈琲、軽食代 220円
カメラ用電池代 945円
合計 5867円
累計 25318円


Next!!   Part 5 竜飛岬はかくも遠し  


Over 100,000km Project